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第2弾 世界患者安全の日 今年のテーマ「Medication Safety 医薬品の安全性」を少し掘り下げて
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9月17日は「世界患者安全の日」です

今回の内容

  1. 過去の世界患者安全の日について
  2. 今年のテーマ「Medication Safety」について 『なぜこのテーマになったのか』
  3. 薬に関する基本情報について
  4. 薬に関する注意点、危険性についてとは?
  5. 薬害とは?『薬害の歴史を振り返って』
  6. 医薬品副作用被害救済制度について
  7. まとめ

1. 過去の世界患者安全の日について

前回お伝えしたように、世界保健機関World Health Organization(WHO)は、2019年5月の総会で、加盟国は、患者安全が保健上の重要優先事項であると位置づけ、医療現場での患者被害を減らすために協調して行動することを決議しました。この行動の一環として、患者の安全を評価、検証し、改善するために必要な技術支援を加盟国に提供することを目的として毎年9月17日に「世界患者安全の日」を設けることが承認されました。  

毎年、テーマとスローガンが提示されており(表1)、加盟各国や各種団体がさまざまなイベント、キャンペーンなどを行ってきました。

2. 今年のテーマ「Medication Safety」について

WHOは、2005より「The Global Patient Safety Challenge 世界規模での患者安全チャレンジ」を展開しています。これまでには

2005. The First Global Patient Safety Challenge “Clean Care is Safer Care”

“清潔なケアは、より安全なケアである。“

この活動の一環として、2009年、毎年5月5日を「World Hand Hygiene Day世界手指衛生の日」と定め、WHO  Guidelines on Hand Hygiene in Health Care (世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン)を公開しています。

2008. The Second Global Patient Safety Challenge “Safe Surgery Saves Lives”

“安全な手術が、命を救う。”

この活動の一環として、WHO Guidelines for Safe Surgery 2009 世界保健機関 安全な手術のためのガイドライン2009を発行しています。このガイドラインは、2015年に日本麻酔科学会が日本語訳を作成、公開しています。

https://anesth.or.jp/files/pdf/20150526guideline.pdf

https://anesth.or.jp/files/pdf/20150526checklist.pdf

2017. Third Global Patient Safety Challenge “Medication Without Harm”

“害のない医薬品”

2017年、第69回WHO総会時関連イベントで、3つ目の「The Global Patient Safety Challenge」として「improving medication safety 医薬品の安全性向上」が計画され、同じ年にドイツで開催された第2回閣僚級世界患者安全サミットで正式に発表されました。このチャレンジの最終目標は、回避可能である重大な薬害を今後5年間で50%削減するというものです。5年目に当たる2022年、WHOはこの活動を再確認する意味も込めて、「世界患者安全の日」のテーマに採用しました。

3. 薬に関する基本的情報について

薬、正式には医薬品を指しますが、日本では、薬事法により規定されています。薬事法では、類似するものとして医薬部外品や化粧品も取り扱っています(表2)。

ここでは、医師もしくは歯科医師が、患者を診察し、その患者の病気やけがの症状、程度や体調・体質などに合わせて処方せんを発行し、その処方せんに従って薬剤師が調剤する「医療用医薬品」を中心に解説していきます。

Ⅰ. 医薬品の剤形について

医薬品は、使用目的に合わせてその効果が発揮されやすくするために、身体に吸収される経路により、飲む「内服剤」、皮膚や粘膜の表面に貼る、塗る、滴下する「外用剤」および血液中や筋肉など体内に直接投与する「注射剤」に分類されます。

内服剤および外用剤の主な剤形とその特徴をまとめてみました(表3、表4)。

Ⅱ. 内服剤の服用方法について

内服剤形医薬品が処方された場合、薬袋(医療機関や調剤薬局で処方された医薬品を収めた袋)やお薬手帳にそれぞれの内服剤を服用するタイミングと服用量(用法・用量)の指示が示されています。

「食後」
食事の後20〜30分以内に服用します。胃内に食べたものが入っているので、胃への刺激が軽減されます。たとえ、おせんべい1枚だけでも食べてから服用することが重要です。

「食前」
食事の10〜30分前に服用します。胃内に食べたものが入っていないため、胃酸や食べ物により吸収や効果発現に影響を受ける内服剤や食後の血糖値上昇や消化不良・吐き気を抑える医薬品の服用に適しています。

「食間」
食事と食事の間で、先の食事の約2時間後に服用します。胃内に食べたものは入っていない状態ですが、食前との違いは、次の食事までに1時間以上開ける必要があります。

「就寝前(眠前)」 
就寝の20〜30分前に服用します。睡眠導入薬や睡眠改善薬など服用後に眠くなる内服剤や睡眠中の効果を期待する場合が対象となります。

「頓服」
決められた時刻ではなく、症状出現時や症状がひどくなった時に服用します。「便秘時」「不眠時」「痛む時」「けいれん出現時」など より具体的な指示があることが多いです。

内服剤の服用時には、通常コップ一杯(150〜200cc)の水もしくはぬるま湯で飲みます。ジュースや牛乳は内服剤の吸収や効果発現に影響する場合があります。アルコール飲料も、副作用が起りやすくなる場合があるため避ける必要があります。

Ⅲ. 先発医薬品とジェネリック医薬品について

製薬会社が、新たに医療用医薬品を開発し、国の承認を得て、実際に臨床現場で使用できるまでには、研究・開発期間、臨床試験(治験)期間と審査期間を合わせると、10年以上の年月と数百億円以上の開発費が必要です。また、新しい医薬品の候補のほとんどは、完成に至ることなく途中で開発が中止されています。さらに、市販後も一定期間もしくは一定症例数で副作用などに関する「製造販売後調査」が義務づけられています。先発医薬品に対しては、開発の要した費用や期間などを反映した価格を国の機関により定められ、特許期間内は製造・販売の独占が認められます。しかし、特許期間が過ぎると、他のメーカーも同じ薬効成分の医療用医薬品を製造販売することが可能となります。これを、先発医薬品に対して「後発医薬品(ジェネリック医薬品」と言います。先発製薬会社が蓄積したデータを活用することで開発に必要な費用と期間を大幅に削減することが可能で、それを反映して販売価格も先発医薬品に比べ安価に設定されます。

ジェネリック医薬品は、先発医薬品と薬効成分は同じで、効果も同じであることを事前に確認されています。滑澤剤(かったくざい)、賦形剤(ふけいざい)やカプセルなど添加物に関しては、先発医薬品と異なる場合があります。先発医薬品開発時以降に開発された添加物を使用することで、より小さい剤形など患者の利便性が向上したものも多くなっています。

ジェネリック医薬品を使用することにより、患者が医療機関や調剤薬局で支払う代金が少なくなると同時に、健康保健組合や地方自治体、国などの負担額も少なくなります。一方、先発医薬品の購入量が減少することで、先発製薬会社の収益は減少して新薬開発に充てる予算も不足し、結果、先発製薬会社の新薬開発力低下に繋がるという側面もあります。

4. 薬に関する注意点、危険性について

Ⅰ. 副作用について

使用される目的に沿った医薬品の効果である「主作用 main effect」以外の身体にとって望ましくない効果が「副作用 side effect」です。アレルギー性鼻炎に対して、抗ヒスタミン薬を服用して、鼻閉や鼻汁などの症状は治まったが、眠くなった場合、「副作用である眠気を生じた」となります。

WHOは、” Harmful, unintended reactions to medicines that occur at doses normally used for treatment are called adverse drug reactions (ADRs). 治療に通常使用される用量で生じる薬に対する有害で意図しない反応を薬物有害反応(ADRs)と呼びます。“ と定義しています。

 副作用は、①その医薬品の目的に沿った効果ではない作用のよるものと、②医薬品の成分に対するアレルギー反応によるものとに分かれます。

①に関して;

その医薬品が治療目的以外の薬理作用を有していることや、目的部位以外にも作用することに起因します。例えば、多くの睡眠導入薬には、脳神経に作用して眠気を誘発する作用だけでなく、一時的に記憶を障害する作用も有しています。消炎鎮痛剤は、胃粘膜上皮細胞にも作用することで胃潰瘍など胃腸障害を引き起こし、腎血流を減少させることで腎障害を引き起こします。

このような副作用の発現に影響する因子には、

  1. 医薬品の使用量が多いほど、あるいは使用期間が長くなるほど副作用が発現しやすくなることがあります。
  2. 別の医薬品と併用することや、特定の食べ物を一緒に摂ることで、副作用の発現を促進する場合があります。
  3. 使用する患者の年齢、性別やその医薬品の使用目的以外の疾患の存在が影響する場合があります。

②に関して;

体に入った医薬品の成分に対する免疫反応(アレルギー反応)により副作用が起こる場合があります。アレルギー反応による主な症状を示します(表5)。 

副作用を予防し、また、重症化させないためには、早めに医師、薬剤師に相談し、医療機関や調剤薬局には、必ずお薬手帳を持参し、処方内容を医師、薬剤師とともに確認し、自身も理解することが重要です。

Ⅱ. ポリファーマシーについて

ポリファーマシー(Polypahrmacy、多剤服用)について、WHOは、2019年に公開した「Medication safety in polypharmacy: technical report」の中で、明確な定義はまだ無いが、「患者が最低5種類の薬を日常的に服用していること」を定義とすることが多いとしています。厚生労働省が2018年に公表した「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」では、「ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化する。薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある。」と記している。

年齢とともに複数の疾患に対する治療が必要となることも多く、例えば、内科、整形外科、泌尿器科など複数の医療機関を受診し、それぞれの医療機関で処方を受けると、同じ薬効の医薬品が重複する場合や、相互作用に注意が必要な医薬品が同時に処方されてしまう場合などがあります。

近い将来、全国民の健康保険証がマイナンバーカードになれば、複数の医療機関受診歴や処方歴の一括管理、情報共有によりポリファーマシー防止が容易になるでしょうが、今のところ、お薬手帳は一冊にまとめて、かかりつけの薬剤師をつくり、何かあれば決して自己判断せずに、すぐに相談することが必要です。

5. 薬害とは?『薬害の歴史を振り返って』

薬害の定義に関しても、確定したものはありません。特定の医薬品に関して、その副作用や安全性の問題によって生じた健康被害が社会問題化に至るほど甚大なものを指すことが多いです。厚生労働省が高等学校向けの教材として発行している「薬害を学ぼう」の指導の手引きの中では、「薬害は、単なる副作用とは違う。」

「全部の事例に共通するわけではないが、一部の事例に共通する要素を分類すると、

  1. 製薬企業が薬を製造する段階で何らかの問題があったもの
  2. 薬に問題があることがわかった段階で、国や製薬企業が被害を防止するために必要な策をとらなかったとされたもの
  3. 薬を使用する医療従事者(医療機関)/薬局の使用方法が適切ではないとされたもの

がある。」と記載されており、人為災害として考える必要があります。

これまでに日本国内で認められた主な薬害を示します(表6)。

6. 医薬品副作用被害救済制度について

「医薬品副作用被害救済制度」とは、医薬品が適正に使用されたにもかかわらず副作用が発生し、それによる疾病・障害等の健康被害を受けた方を迅速に救済給付することを目的として公的制度です。前項の表6に示したキノホルムによる健康被害に対して、1971年以降、多くの被害者が国と製薬会社に対して損害賠償請求訴訟を提起し、最終的には約5000人が全国27か所の地方裁判所でいわゆるスモン訴訟の原告となりました。被告側である国の全面敗訴判決が続き、1979年、国と被害者/被害者家族との間で和解が成立しました。この和解が1つの契機となり、同年、医薬品副作用被害救済基金(現在の独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)が設立され、翌1980年より本制度が発足しています。

Ⅰ. 本制度の対象

 1980年5月以降に適正な目的で適正に使用されたにもかかわらず発生した医薬品の副作用被害が本制度による救済給付の対象ですが、以下のような場合には、対象となりません。

◎対象外となる場合(これら以外の場合もあります。)

  1. 医薬品の使用目的・方法が適切ではなかった場合
  2. 健康被害が入院治療を要する程の重症ではなかった場合
  3. 一部の抗がん剤など本制度の対象除外医薬品による健康被害の場合
  4. 救命目的などで通常使用量以上の医薬品を使用し、健康被害の発生を事前に認識していた場合
  5. 医薬品等の製造販売業者や医療機関など、損害賠償責任の所在が明らかな場合

Ⅱ. 救済給付の種類・内容

  1. 副作用により生じた入院加療を必要とする程度の疾病に対する医療費、医療手当
  2. 副作用により生じた日常生活が著しく制限される程度以上の障害が生じた場合の障害年金、障害児養育年金
  3. 副作用により死亡した場合の遺族年金、遺族一時金、葬祭料

Ⅲ. 救済給付の仕組み

本制度では、副作用による重篤な健康被害を被った本人もしくは遺族が直接、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に、医師の診断書や投薬・使用証明書など必要な資料を添えて請求すると、図1に示すような流れで判定、諮問決定が実施されます。

Ⅳ. 本制度の活用状況

2016年度から2020年度までの5年間で、給付の支給が決定したのは約6500件で、支給決定は全体の82%、不支給となったものは18%でした。本制度の詳細については、PMDAの専用ページをご参照下さい。

7. まとめ

医療にとって医薬品は必需品です。しかしながら、100%安全な医薬品は存在しません。医薬品をより安全に使用するためには、製薬会社や行政機関による迅速かつ正確な情報収集と情報開示の下、医師や薬剤師などの医療従事者と患者とがお薬手帳を活用して連携を密にしていくことが重要です。

(広報委員会 水本一弘、西隈菜穂子、水沼直樹)

図表の説明

表1:これまでの「世界患者安全の日」

表2:医薬品、医薬部外品および化粧品の違い

表3:内服剤の剤形

滑澤剤:薬効成分を錠剤の形に圧縮成形する際に滑りを良くし、錠剤表面に光沢を与えるタルクやロウなどの添加物

賦形剤:錠剤、散剤、顆粒剤などで、薬効成分の成型、増量、希釈を目的に加えられる乳糖、結晶セルロース、デンプンなどの添加剤。

表4:外用薬の剤形

表5:医薬品に対するアレルギー反応の主な症状

表6:日本での主な薬害

図1:医薬品副作用被害救済制度での給付の仕組み

(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, PMDA 「医薬品副作用被害救済制度」ホームページより)