いりょうじこ
(1) Harmful incident, (2) Medical accident
定義
(1) 医療に起因して患者に不必要な害をもたらしたできごと(WHO, 2009)
(2) 当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの(医療法第 6 条の 10, 2015)
解説
医療事故という用語は,混乱をもたらす用語であり,使用する際には,定義も含めて使用することを推奨する.特に,日本では(2)の定義が限定的に用いられている.(1)と(2)は,いずれも医療事故だが,別用語だと理解することが必要である.
(1) WHO (2020)は,通常医療行為からの逸脱をインシデント,そのうち患者に害をもたしたものを有害なインシデント(harmful incident)と定義しており,これを可能な限り低減することを医療安全/患者安全の目標としていることから,本委員会は,医療事故に相当する英語として harmful incident を採用した.日本では,医療事故は,「医療に関わる場所で,医療の全過程において発生するすべての人身事故」1,2).定義され,医療従事者の過誤,過失の有無を問わず,患者のみならず医療者が害を受けること(労働災害)も含まれているが,本委員会は,労働災害の防止は,医療安全/患者安全の枠組みとは別だと考え,厚生省/厚生労働省の「医療事故」の定義を意図的に採用しなかった.なお,WHO は、harmful incident(有害なインシデント)には,防止可能な adverse event(有害事象)と防止できなかったadverse reaction(有害反応)が含まれるとしているが,米国医学研究所(Institute of Medicine: IOM)は,adverse event とは,医療介入に起因して害をもたらしたできごとであり,患者の病態に起因するものではないと定義し 3), adverse event と harmful incident をほぼ同じ文脈で用いる等,国外でも adverse event の定義が定まっていないため,adverse event を医療事故の英訳として採用せず,WHOの定義する harmful incident を採用した.
(2) 日本の医療法で定義され「医療事故」として報告義務のある事例については,防ぎえたか否かにかかわらず,医療に起因する予期せぬ死亡事例のことを指す.対象となる事例には,標準的な医療が提供されたが,思いがけず死亡に至った事例も含まれる.医療事故調査・支援センターは,英語の accident の本来の意味「思いがけず起こり,回避が難しかったできごと」に近い事例も含まれるという考えのもとで,医療事故調査制度の英訳を medical accident investigation とした 4).一方で,事例の中には,標準医療からの逸脱による死亡事例や回避可能であったと思われる事例も含まれるため,medical accident という訳語については,「標準的な医療を提供したが害をもたらした死亡事例についての調査」という誤解を招かないように,法律上の定義を明記して使用することが望ましい.
参考文献
1) 厚生省.リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成委員会. 患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書. (2000) https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/sisin/tp1102-1_12.html [アクセス日 2023.05.07]
2) 厚生労働省.医療安全対策検討会議. 医療安全推進総合対策~医療事故を未然に防止するために~ (2002) https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0110/tp1030-1y.html[アクセス日 2023.05.07]
3) Institute of Medicine (US) Committee on Quality of Health Care in America. To Err is Human: Building a Safer Health System. Washington DC, National Academies Press (2000)
4) 一般社団法人日本医療安全調査機構.https://www.medsafe.or.jp/[アクセス日 2023.05.07]
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